記者:第14期党中央委員会第3回総会でトー・ラム書記長兼国家主席が示した4つの戦略的転換の意義をどのように評価しますか。
西沢利郎氏:4つの戦略的転換は、ベトナムの発展潜在性を浮かび上がらせました。第14回党大会のビジョンを、今回の総会が素早く政策指針へと落とし込んだことは、ベトナムのさらなる発展への信頼感を高めたと思います。
党指導部は、国家ガバナンスのあり方を根本から見直そうとしており、その中心に「発展モデルの刷新」を据えたと理解しています。トー・ラム書記長の発言にあるとおり、4つの転換は相互補完的で、統合的な国家発展の枠組みを形成するものだと思います。
内容を見ると、最初の2つは主に国内ガバナンスの課題に関わりますが、これらは当然ながらベトナムのアジア域内を含めた国際的な立ち位置にも影響を与えるものです。
特に重要なのは第3の転換で、従来型の発展モデルから生産性、知識、技術、人材を軸としたモデルへの移行です。これは、これまでの経済的成果を活かしつつ、地政学的不確実性が高まる中で、ベトナムの経済的・政治的な交渉上の立場を強めることにつながります。
そして安全保障への対応を受動的から能動的なものとする第4の転換は、より自律的でレジリエントなベトナムを築く基盤になると考えています。
記者:指導力・ガバナンス能力の強化、国家機構の効率化、国土・資源の統合的管理への転換は、ベトナムの制度的・経済的パフォーマンスをどのように高めるでしょうか。
西沢利郎氏:最近の改革は、制度的な土台をしっかり固める方向に進んでいると思います。ただ、それが経済的パフォーマンスの向上につながるかどうかは、企業や個人が強い動機づけを得られるか、努力が公正に報われると感じられるかにかかっています。
最近、日本経済新聞がIMDのアルトゥーロ・ブリス教授による自転車と乗り手の比喩を紹介していました。
私の解釈ですが、よく設計された自転車は素晴らしいものですが、不要な機能で重くなってしまえば、どれほど力のある乗り手でも速く、遠くへ進むことはできません。つまり、自転車で喩えられる制度がどれほど立派でも、余計な負荷が多ければ前に進めませんし、逆に制度が良くても、乗り手で喩えられる企業や個人が漕ぐ気にならなければ、やはり前に進まないということです。制度と人々のモチベーションが両輪として機能して初めて、改革は成果を生むのだと思います。
記者:生産性・知識・科学技術・イノベーション・高品質人材を軸とする新しい開発モデルを採用することで、どのような機会が生まれ、どのような課題が想定されますか。
西沢利郎氏:理論的には、資本や労働投入の増加だけに依存する「インプット主導型成長」には限界があると多くの経済学者が指摘しています。技術、制度、分配のダイナミズム、構造的な側面は見落とされがちです。
歴史上も、例えば、産業革命期の成長も単なる投入増ではなく、技術革新や制度改革が原動力でした。
その意味で、生産性、知識、科学技術、イノベーションを中心に据えたモデルへの転換は極めて合理的です。重要なのは、単なる労働力の量ではなく、高度な人材によって形成される労働力の質です。
一方で、知識、科学技術、イノベーションへのアクセス、スキル、恩恵の格差が広がる可能性には注意が必要です。人工知能(AI)などの新技術は恩恵をもたらす一方で、個人、コミュニティ、会社の間で格差を拡大するかもしれません。また、格差拡大は同時代のみならず、世代を越えて広がるでしょう。
第14回党大会で打ち出された公平な社会・経済の長期ビジョンに沿って、発展の成果を、時間軸を通じて公正に分配する政策が不可欠だと思います。
記者:日本の視点から見て、これらの戦略的転換―特にリスクの予防的対応とレジリエンス強化―は、日越協力やベトナムのサプライチェーン上の位置づけにどのような影響を与えるでしょうか。
西沢利郎氏:日本の視点から見ると、4つの戦略的転換は総じて前向きに評価されると思います。特に、リスクを事前に防ぎ、国としてのレジリエンスを高める取組は、日本も重視すべきです。
もっとも、日越協力は単純な二国間関係ではありません。地政学的には多くの国の利害・思惑が絡み、経済的には地域・世界のサプライチェーンの中に位置づけられます。両国関係は広範なエコシステムの一部です。
ベトナムにとって日本は複数の選択肢の一つにすぎないでしょう。日本にとっても同じです。日本にとって、ベトナムが多くの選択肢の一つではなく、最優先のパートナーとなるときだけ、両国の協力関係は実質的なものとなります。
双方が、課題ごとに、分野ごとに、相手の強みと魅力を見出せれば、掛け声だけでない、実質のある日越協力が実現します。
また、地政学的複雑性とサプライチェーンの本質を踏まえると、二国間だけでなく、より広範なエコシステムの中で相互利益を追求すべきだと思います。多国間的・多層的な発想が重要です。
文:グエン・トゥエン