ベトナムで3月15日に2026年~2031年任期の第16期国会議員選挙および各級人民評議会議員選挙が行われるのを前にベトナム通信社の在日記者が、東京大学の西沢利郎 教授と意見交換を行った。
記者:第15期(2021年〜2026年)のベトナム国会の活動実績を、どのように評価されていますか。
西沢利郎 教授:第15期の国会は、パンデミックのあと、さまざまな混乱がありましたが、その後半には制度改革や行政効率化を中心に意欲的に取り組んだと高く評価しています。
メディアやベトナムウォッチャーの多くも、「国家運営の近代化を前進させた」と、好意的に評価していると思います。
国会は、2025年に89本の法律と91本の決議を可決しています。これは第15期全体の可決の4割を超えています。
そのなかで、私が注目したのは、6月16日に可決された、2013年憲法のいくつかの条項の改正と補足決議です。この憲法改正によって、地方行政組織の大規模な再編が実現しました。
従来の63行政単位を34に集約し、行政階層を三階層から二階層(「省・中央管轄市、郡、基礎レベル」から「省・中央管轄市、基礎レベル」)に減らしています。これは、昨年3月の省庁などの再編・合理化と同様、とても大胆な行政改革だと思います。
ひとつ興味深く感じたのは、パンデミックのなかで2021年に導入された電子身分証明システム(VNeID)が法案に対する国民の意見収集・集約に初めて利用されたことです。これは、科学技術、イノベーション、国家のデジタル変革を推進するという大きな方針に沿ったものだと解釈しています。日本では国会のデジタル化の遅れを指摘する声が高まっています。このため、ベトナムの経験は関心を呼ぶと思います。
記者:ベトナムが新たな発展段階に入る中で、今回、国会と人民評議会選挙を通常より2か月前倒しで実施することには、どのような意義があるとお考えですか。
西沢利郎 教授:意義があると考えています。これまで5月に行われていたものが3月となり、国会開会は4月6日の予定ですね。
今年1月の共産党第14回大会は、ベトナムが2030年に(低中所得国から)高中所得国に、2045年に先進国の仲間入りする目標を設定しました。行政改革、汚職防止、デジタル化を加速し、外交では多極化路線を継続し、さらに教育・医療改革や気候変動対策などを重点化したと理解しています。
いずれも意欲的な目標です。党大会決議の実施初年度に、一刻も早く国会で政府の要職を決定し、良いスタートを切りたいという意志を感じます。
また、10%以上の経済成長達成を掲げる2026年の社会経済発展計画の実施にとっても、前倒しは意味があるでしょう。
さらに、中東での紛争などにより国際情勢が緊迫し、益々不透明となっているなか、多極化外交を推進するベトナムがそうした国際情勢に対応するためにも必要だと思います。
いずれの分野でも、大きな成果を早期に実現できることを期待しつつ、見守りたいと考えています。
記者:今後、ベトナムと日本の議会間協力をさらに強化していくためには、どのような取り組みが有効だとお考えですか。
西沢利郎 教授:昨年8月には、日本・ベトナム友好議員連盟会長の小渕優子衆議院議員を団長とする衆議院議員団がベトナムを訪問しました。
トー・ラム書記長とチャン・タイン・マン国会議長への表敬、レー・ミン・フン越日友好議員連盟会長などとの面談、カントー市で開催された投資セミナーでメコンデルタ5省・市代表者との意見交換など、幅広い交流を行っています。
ベトナムと日本の、さまざまな分野での協力のひとつとして、両国の議員、両国の議会の協力は有意義だと思います。
協力推進に際しては、双方が関心をもつ重点分野を特定し、焦点を絞って議論してはどうでしょうか。また、総論にとどめず、各論について対話することによって協力関係が強化され、成果が実現することを期待しています。
とはいえ、「悪魔は細部に宿る」という英語の格言があります。このため、相互信頼を醸成し、忍耐をもって対話を続けること、さらに交流の頻度を上げることも重要でしょう。「神は細部に宿る」といえることを期待します。
また、議員や議会の協力を、縦横に展開していくことも必要でしょう。縦展開とは、例えば、地方議会に広げていくことです。横展開とは、「政治」のみならず、産・官・学に繋げていくことです。幅広い国民の協力によって未来を一緒につくっていく、すなわち「共創」する協力です。
より広い意味では、人と人との交流が広がれば、日本国内で、ベトナムがダイナミックに成長・発展しており、かつ平和的で相手を尊重する国だという理解が広まると思います。
記者:国際環境が急速に変化する中で、ベトナムは自国の発展と国際的な関与を支えるために、議会外交をどのように強化していくべきだとお考えですか。
西沢利郎 教授:Vietnam.vnという情報プラットフォームによると、昨年は、チャン・タイン・マン国会議長、国会副議長、常任委員会委員の多くが外交活動に参加し、他国の国会議員団を数多く接遇したとのことです。国際環境が急速に変化する中では、多極化外交を堅持するベトナムの役割、そのなかでの議会外交の役割も重要です。
議会外交をどのように強化していくべきか。ベトナムと日本の議会間協力について申し上げたことは、議会外交全般についても当てはまると思います。相手方が関心をもつ重点分野を特定し、焦点を絞る、総論にとどめず、各論について取り組む、交流・対話の頻度を上げることが重要です。
ベトナムが主体的に「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ(CSP)」の精神をグローバルに、すなわち数多くの国々との間でも展開されることが重要です。そうした取り組みが、相手国の姿勢や行動を良い方向に導くことを期待します。議会外交は、そうした取り組みに大きく貢献できると思います。
記者:ありがとうございました。
グエン・トエン/ベトナム通信社