ホーチミン市中心部に佇むフランス建築の痕跡
近代的な高層ビルが次々とそびえ立つホーチミン市には今もなお、歴史の証人のように数多くの古典的フランス様式の建物が残されています。1世紀以上の時を経ても、それらの建物は単に存在し続けるだけでなく、都市の景観に欠かせない一部となり、ベトナムで最も活気に満ちた都市の独自のアイデンティティを形づくっています。
サイゴン、現在のホーチミン市におけるフランス建築の存在は、19世紀後半にフランス人が行政機構を構築し、都市開発を進めた過程と深く結びついています。1859年にフランスがザディンを占領した後、植民地政府は西洋建築様式に基づく官庁、教会、劇場、学校、そして邸宅を次々と建設しました。特別な歴史的背景の中で生まれたこれらの建築物は、単なる遺構ではなく、1世紀以上にわたりホーチミン市の近代的な都市景観を形づくる重要な要素となりました。
ホーチミン市におけるフランス建築の際立った特徴は、ロマネスク、ゴシック、ルネサンス、バロックなどのヨーロッパ建築様式と、現地の気候や文化との調和の取れた融合にあります。これらの建築物は、左右対称のレイアウト、堅牢な柱の構造、ドーム型の屋根、精巧なレリーフ装飾、そして芸術性の高い多くのディテールを特徴としています。
南部の高温多湿な熱帯気候に適応するため、これらの建築物は広い回廊、通気性のあるルーバー窓、急勾配の屋根、さらに東洋的な装飾模様などが建築家によって様々な工夫が凝らされました。西洋の建築技術と東アジア文化の精神の融合こそが、独特なインドシナ建築様式を生み出し、今日に至るまでこれらの建築物に力強い生命力を与え続けているのです。
ホーチミン市中心部を散策すると、フランス建築の影響を受けた象徴的なランドマークが数多く目に入ります。中でも印象的なのは、特徴的な赤レンガとロマネスク様式とゴシック様式が融合した荘厳なサイゴン大教会、鉄製のドーム屋根と優美な新古典主義模様が特徴的なホーチミン中央郵便局、そして街の中心部に聳え立つヨーロッパの城のようなホーチミン市人民委員会庁舎(旧西区役所)などが挙げられます。
そのほか、かつて実業家フア・ボン・ホア(ホアおじさん)の邸宅であったホーチミン市美術館は、フランス建築と東洋の装飾芸術の融合を鮮やかに示す好例です。 また、華麗なフランボワイヤント・ゴシック様式のホーチミン市立劇場や、有名な四面時計塔のあるベンタイン市場も、この街の独特な個性を際立たせる建築上の見どころです。
今日では、フランス建築の建物は単なる歴史的遺産にとどまらず、現代の生活の中にも深く根付いています。多くの建物は行政、文化、商業といった本来の機能を維持しながら、国内外の観光客にとって魅力的な訪問先となっています。また、これらの建築物は市民が集い、訪れ、日常のひと時を過し、都市の歴史を学ぶことのできる身近な公共空間でもあります。
急速に発展する現代都市の鼓動の中で、フランス建築は今も静かに過去の物語、つまり今日のホーチミン市の姿を形づくってきた東西文化の交流と融合の物語を語り継いでいます。これらの建築物の価値を保存し、継承していくことは、芸術的価値の高い建築作品を守るだけでなく、都市の記憶と豊かなアイデンティティを持つ都市の文化的深みを守ることにもつながります。 これこそが、ホーチミン市独自の魅力を生み出し、市民や海外からの観光客の心に忘れがたい印象を与える所以なのです。
文:ソン・ギア
撮影:グエン・ルアン/ベトナムフォトジャーナル


















