古田元夫教授:ベトナム研究家からグローバル大学の先駆者へ

古田元夫教授:ベトナム研究家からグローバル大学の先駆者へ

ベトナムと共に歩んで半世紀以上、ハノイ国家大学日越大学(VJU)の学長である古田元夫教授・博士はベトナムに関する深い知識を持つ研究者としてだけでなく、国際的な大学のモデルを切り拓いた先駆者としても広く知られています。 ベトナムの人々と文化への深い愛情から、教授は両国の知識を繋ぎ、グローバル化の時代におけるベトナム高等教育の新たな道を切り開くことに大きく貢献してきました。


2025–2026年度の新学期開講を告げるため、厳かに太鼓を打ち鳴らす古田元夫教授。


学生たちに向けて歓迎の挨拶を述べる古田元夫教授。


記者:教授、初めてベトナムの地を踏んだときの第一印象を覚えていらっしゃいますか?

+ 古田元夫教授:私は1974年12月に初めてハノイを訪れました。当時、北ベトナムはまだ戦争の爪痕が色濃く残っていましたが、私はベトナムの人々の不屈の精神と強い民族的誇りを強く感じました。 そして、パリ協定が締結されて間もない時期にもかかわらず、チャンティエン通りには多くの美術展示室が並び、文化的な活力が溢れる光景を見て、大変驚かされました。

記者:ベトナムの公立大学で初めて外国人の学長に就任されましたが、VJUでのお仕事はどのように始まったのでしょうか?

古田元夫教授:ベトナムの高等教育は専門職養成において非常に優れているものの、学生のグローバルな思考力や適応力を育む点ではまだ課題が残っていると感じました。 そのため、VJU はリベラルアーツの教育理念を採用し、学生の思考力、国際協調のスキル、そして創造性の育成に重点をおいています。


 古田元夫教授・博士は1949年生まれ、1974年に東京大学を卒業し、1990年に博士号を取得した。現在はハノイ国家大学日越大学(VJU)の学長、日越友好協会会長および日本ベトナム学会会長を務めている。

ベトナム研究者として、現代ベトナムの歴史や政治に関する数多くの研究成果を有している。また、東京大学の総合文化研究科教授、教養学部長、副学長などの要職を歴任した

国家科学技術賞を受賞した初の外国人であり、最近ではベトナムへの半世紀以上にわたる貢献により、2025年バオソン賞を受賞した。 


日越大学に10年以上にわたり深く関わってきた古田元夫学長。


 

 記者:グローバル化が進む現在の状況において、ベトナムの教育の現状をどのように評価されていますか?

古田元夫教授:ベトナムの人々は学習意欲が非常に高く、長い歴史を持つ教育の基盤があります。現在、高等教育は改革とイノベーションの精神をもって大きく変革しつつあります。ベトナムの大学はグローバルな潮流への迅速な適応において、日本よりも先駆的な側面を持っています。近い将来、ベトナムが海外の学生にとって魅力的な留学先となると確信しています。

 

日越大学の今後5年間の方向性についての会議で、来校した日本政府代表団と意見交換を行う古田元夫教授。


記者:VJU における日本研究は先生の「創造物」とも言われていますが、このプログラムはこれまでにどのような顕著な成果を上げてきましたか?

古田元夫教授:現在、VJU の 9つの学部教育プログラムの中で、日本研究は最も多くの学生が在籍しています。私たちは学士、修士、博士の三つの課程を設け、ベトナムとのかかわりにおける現代日本研究に重点を置き、日本語能力と両国文化の理解に特に力を入れています。現在、本プログラムの教育の質は、この分野で数十年の伝統を持つ他の教育機関に匹敵するレベルに達しています。


開講式にて日本からの代表団を温かく迎える古田元夫教授。


 

記者:日本人のベトナム研究者として、ベトナム滞在中の思い出に残る体験をお聞かせいただけますか?

古田元夫教授:私より前の日本人研究者の世代は、アメリカやフランスでベトナム研究を学ぶことが一般的でした。しかし私は別の道を選び、「メイド・イン・ベトナム」のベトナム研究者になりたいと考えました。実際にベトナムへ留学することはできませんでしたが、幸運にも貿易大学で日本語を教える機会を得て、チャン・ヴァン・ザウ、ファン・フイ・レ、ヴァン・タオ、ズオン・フー・ヒエップといった多くの著名な学者や教授と出会うことができました。まさに彼らのおかげで、私はベトナム研究の道で成長することができたのです。


古田元夫学長と国立大学の教授・講師陣。


 

記者:VJU が海外から留学生が集まる大学となるために、どのような計画をお持ちでしょうか。

+ 古田元夫教授:VJU の使命は、日越協力を通じてグローバル人材を育成することにあります。過去 10年間で、本学の大学院生の約 15%がアジアおよびアフリカの 10 か国以上から集まっています。今後も国際協力ネットワークをさらに拡大し、VJU を地域における多文化的な学習環境へと発展させていく方針です。

 

古田元夫教授と日越大学の学生たち。

 記者:2025–2026年度新学期の開講日にあたり、ベトナムの学生たちにどのようなメッセージを伝えたいとお考えでしょうか?

古田元夫教授:私は常に、ベトナムの学生たちを誇りに思っています。彼らは聡明で勤勉、そして強い志を持っています。彼らが学び続け、創造し続け、そして国や地域の発展に貢献できるグローバル人材へと成長し、国と地域の発展に貢献してくれることを願っています。また、日越大学の使命に則り、日越協力を通じて、知識や技能だけでなく、開かれた精神、多文化への敬意、そして人類の共通の未来のために共に歩む強い志を持つ、グローバル人材の育成に貢献していきたいと考えています。

記者:教授、誠にありがとうございました。


文:ビック・ヴァン
撮影:ヴィエット・クオン/ベトナムフォトジャーナル




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