チェオ ベトナム人の代表的な伝統演劇芸術

チェオ ベトナム人の代表的な伝統演劇芸術

 10世紀に誕生したチェオは、ベトナムの人々の文化的および精神的な生活において重要な位置を占めている独特な民俗演劇芸術です。紅河デルタの集落で人気を博した伝統的な演劇は時代の流れと共に北部や山岳地帯、北中部地域に徐々に広がっていきました。ベトナムは独特な芸術的価値を持つチェオを世界文化遺産としてユネスコから認定を受けるための書類作成に取り組んでいます。


キム・リエン集会所(ハノイ、ドン・ダー区) のチェオのござ。

撮影:カイン・ロン/ベトナムフォトジャーナル


集会所の庭の「ござ」で演じていたチェオから今では「ステージ」でのチェオへ


 

多くの研究資料によると、チェオは10世紀にホア・ルー (ニン・ビン省) の首都で誕生し、ディン王宮の有名な舞踏家ファム・ティ・チャンによって確立されたと言われています。首都ホア・ルーから、チェオの芸術は北部デルタ全体に広く発展し、タイ・ビン省、ハイ・フォン省、ハ・ナム省、フン・イェン省、ハノイのいくつかの地域で最も盛んとなり、その後徐々に北部山脈と北中部の地域全体に広がりました。

 

ニン・ビン省はチェオ芸術の先祖伝来の土地として知られていますが、タイ・ビン省ドン・フン県フォン・チャウ集落のクオック村は、伝統的なチェオ演芸運動が最も盛んとなった本拠地であり、独特のチェオチューンが今も数多く保存されます。クオック村は19世紀以来、北部で有名なチェオの七地域の一つです。かつて、クオック村のチェオは王宮で上演され、多くの地域で芸人によって上演されていました。 


クオック村の伝統的なチェオクラブのブイ・ヴァン・ロー会長によるとまだ経済的に非常に困難だった補助金時代では、ほとんどの家族はベトナムの声のラジオを通してのみチェオの歌声を聞くことができ、プロのチェオ劇団の演技を実際に自分の目で見ることは困難でした。そのため、村人たちは余暇に集会所の真ん中にござを広げてチェオを歌い、思いを満たしました。特にクオック村の伝統的なチェオ芸術、そしてベトナムの伝統的なチェオ全般の保存と発展に貢献したのはこれらのアマチュアのチェオの役者たちです。

昔、チェオは集会所、寺の庭、貴族の庭でよく演じられていました。チェオのステージは通常、庭の真ん中に敷かれたマットで、後ろに小さなカーテンが掛けられていました。チェオの役者はマットの上で演じ、演奏家はマットの両側に座り、観客はステージの正面と側面の3方向すべてから見ることができました。

 

 他の民俗芸術とは異なり、チェオは歌、踊り、音楽、演劇の要素を独自に組み合わせた、民族性が染み込んだ一種の演劇です。チェオの歌はソロ、デュエット、またはコーラスの舞台歌唱です。チェオの歌の旋律はベトナムの人々の自然な声と言語に非常に合っています。

チェオの演目の内容は、農民の素朴な生活、人間の高貴な資質の称賛、悪い習慣や悪徳の批判、不正との戦い、愛と思いやり、寛容、容認などを描写することがよくあります。したがって、チェオを見ると人々は笑いに満ちたリラックスした瞬間を楽しめるだけでなく、人生を体験し、振り返る機会にもなります。チェオの登場人物は多くの場合、慣習的で高度に文学的です。特に、チェオの道化師は脇役ではありますが、人々が「道化師がなくてはチェオにならない」という言葉をあるほど重要です。道化師は言葉のやり取りと機知に富んだ演技で、王や官僚、村で権力や財産を持つ人々などの封建社会の悪い習慣を激しく非難して聴衆を笑わせるだけでなく、演目の別の精神や考え方を伝えました。 

長い歴史を経て、チェオ芸術のパフォーマンスの空間も少しずつ変化してきました。今日、チェオは集会所の庭で上演されるだけでなく、最新の音響および照明システムを使用した大舞台で上演されることもあります。また演劇の傾向は観客が興味を引きやすくするためにニュース性や生活に密着した内容を備えることで現代のチェオ演劇の形成と発展につながりました。質の高いコンテンツと芸術性のある多くの演目を上演した2022年の全国チェオフェスティバルは創造性と斬新さで観客を魅了し、視聴者に芸術の洗練性を感じさせた具体的な例です。


チェオを世界文化遺産にするための取り組み


時間の流れに従って、統合文化の影響を受ける前に、伝統的なチェオ芸術の価値を保存および発展させるための努力が必要です。現在、チェオ芸術をより多くの観客に届けるために、毎週チェオ劇場の舞台で演じている他、チェオの演出家や俳優の養成にも大きな関心が寄せられています。

 

この場所は北部デルタのチェオ芸術発祥地と見なされているため、父が残した伝統的なチェオの仕事を受け継ぎ、火を灯すために週末や夏の間、タイ・ビン省のクオック村の多くの有名な役者たちは現在でも、6歳から15歳までの子供たちに伝統的なチェオの歌の基本を熱心に教えています。

 

ファム・ティ・ハンさん(14歳)は「5歳の頃から祖父と父が歌っているのを聞いていたので、チェオが大好きです。今、私は多くの昔のチェオ曲を研究し、学んでいます。私たちの世代がクオック村からチェオを連れ出し、さらに先に進むことができることを願っています」と述べました。 


 

特に、スアン・ヒン、クォック・チュオン、タイン・ゴアン、トゥ・ロン、トゥ・フエンなどのベトナムの有名なチェオの役者たちが育った所はハノイ演劇映画大学の演劇学部です。ここは、チェオの芸術を体系的かつ専門的に訓練する場所です。チェオの役者を専攻する学生は4年間の訓練を受け、歌、舞踏、チェオ演技技術などのチェオの基礎知識と技術を十分に身につけることができます。チェオの演奏家たちは楽器の基礎を学び、劇に合わせて演奏します。したがって、ここは全国のチェオ劇団とチェオ劇場の主要な役者や芸術家を訓練し、送り出す機関です。

 

ハノイ・チェオ劇場のレー・ヴァン・トゥアン芸術監督は「プロのチェオの役者と演奏家のトレーニングはチェオ劇場が多くの優れた演劇を上演し、観客に見てもらうために役立つため、非常に重要です」と述べました。


 


次世代のチェオ役者の養成に加えて、より多くの人々がこの芸術を理解して愛してくれるように、チェオ芸術を現代文化空間に導入することも多くの注目を集めています。最近、伝統的なベトナム演劇を愛する若者のグループがいくつかの共同体とチェオのプロジェクトを試みました。2時間の上演を三つのパートに分け、第一部ではチェオ村の紹介を行い、観客はチェオの典型的な5つのキャラクターのセリフについて基本的な理解を深めることができ、第二部では役を演じてみて観客が理解できるようになりす。第三部はチェオの役者によるチェオの演劇「観音ティ・キン」です。

 このプロジェクトの実行に加えて、他の何人かの若者は芸術的なチェオのキャラクターの絵をデジタル化し、チェオの芸術を現代生活に近づけました。

 

「紅河デルタのチェオ芸術」の書類作成・申請を担当するタイ・ビン省文化・スポーツ・観光局のチュオン・ティ・ホン・ハイン局長は、目標は2024年末までに世界文化遺産としての認定を受けるためにユネスコに提出する書類「紅河デルタのチェオ芸術」を完成させることであると述べました。

 


強い民族色を持ち、大衆性に富み、社会生活に深く入り込んで
ベトナム人の思想を染み込ませるチェオ。
撮影:カイン・ロン/ベトナムフォトジャーナル


ベトナムの人々の有名な伝統的なチェオ芸術を保護し、発展させるためにはチェオ芸術の歌、演奏、保存に対する国の熱意と人々の積極的な参加が必要です。同時に、これは必要不可欠な取り組みでもあり、すぐにユネスコから世界文化遺産として認定を受けるためにベトナムが最善を尽くす意思があることを示すものでもあります。


文:ガン・ハー

撮影:カイン・ロンと資料

訳者:ソン・タム・クエン



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