地方の潜在力

陶磁器と漆芸 、ホーチミン市北東の玄関口で輝く伝統工芸遺産

ホーチミン市北東部に位置し、かつて統合前のビンズオン伝統工芸の地として栄えたこの地域では、陶磁器と漆芸の二つの職人技が、急速な都市化の波の中でも力強く受け継がれ、発展を続けています。 伝統的な窯焚きの技法、素朴で味わい深い釉薬、そして天然漆・卵殻細工・金箔装飾といった精緻な技術が息づくこれらの工芸村は、長い歴史を持つ文化価値を守りながら、現代市場にも柔軟に対応しています。 若く創造的でエネルギーに満ちた都市の中で、ベトナムの手仕事の精華を体験したい旅行者にとっても、理想的な訪問地となっています。

熟練した職人の巧みな手仕事によって生み出される精巧で高い美的価値を持つ陶磁器。
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル

陶芸 ― 土と炎が生み出す遺産

ホーチミン市北東部の陶芸村は、長い歴史を誇り、薪窯によって生み出される自然な釉色と独特の耐久性で知られています。ウナギ肌釉、灰釉、貫入釉などの釉薬は、何百年にもわたりこの地域の陶器を象徴する“印”となってきました。水がめ、壺、植木鉢から装飾品、工芸品に至るまで、どの作品にも素朴でおおらか、そして南部らしい風情が宿っています。

 

ダイフン甕窯を代表する卓越した職人であり、
伝統的な陶工の道に一生を捧げたホー・ヴァン・ロン氏。

撮影:レー・ミン/ベトナムフォトジャーナル


成形用の型に原料を流し込む工程は、陶磁器製造における重要な第一歩です。
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


組み立てて窯に入れる前に、自然乾燥させられる甕の各部品。
撮影:レー・ミン/ベトナムフォトジャーナル


伝統工芸の粋を受け継ぐライティウの工房で、芸術的な陶器の造形を行う職人。
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


ダイフン甕窯の伝統的な窯の中に積み重ねられた甕の列は、
古くから続く陶工の営みの粘り強さを物語っている。

撮影:レー・ミン/ベトナムフォトジャーナル


急速に変化する美的ニーズと消費傾向に応えるため、多くの工房は伝統技法と現代美術の感性を融合させ、国際市場に適したデザインを積極的に取り入れています。陶器は今やホステル、カフェ、リゾートなどの空間を彩るアクセントとなり、若い都市の創造的な空間づくりに欠かせない存在となっています。また、陶芸体験ツアーも人気を集め、訪れた人々は自ら土をこね、ろくろを回し、作品が形になる過程を味わうことができます。


自ら技術指導を行い、若い陶工たちに技を受け継がせている
人民芸術家リー・ゴック・ミン氏。

撮影:ミンロンIの資料


猫の像に色を施し、模様を整える工程は、窯入れ前の美観を左右する重要な作業である。
撮影:レー・ミン/ベトナムフォトジャーナル


APEC2017を主催したベトナムが
21の経済体の首脳に公式贈呈品として用意した「APEC玉盃」である。

撮影:ミンロンIの資料


ミンロンI有限会社は、現代技術を導入することで、
ベトナム陶磁器製品の品質と価値を向上させている。
撮影:ミンロンIの資料


特に、地域を越えて名を馳せるミンロン陶磁器は、ベトナム陶芸の国際的な地位を確立するうえで大きく貢献しています。伝統技術と現代技術を融合させ、高い純度、鮮明な文様、優れた耐久性を備えた製品を生み出しています。家庭用食器セットから高級ギフトラインまで、その洗練と革新性は東南部の陶芸発展に重要な役割を果たしています。

漆芸 ― 伝統美術が放つ色彩と金の輝き

 

陶芸と並び、この地域の漆芸はベトナム美術を代表する精華のひとつです。職人たちは天然の漆を用い、卵殻象嵌、金銀箔、そして多層研磨技法を組み合わせ、他に類を見ない深みのある表現を生み出します。南部の生活風景、寺院、四季の草花、さらには抽象的な色面構成まで、漆芸ならではの繊細で気品ある表現で描き出されます。

ビンズオン合併前)にあるトゥオンビンヒエップ漆芸村は、ベトナム漆芸の揺りかごとして知られ、何世紀にもわたり精巧な手工芸品で名声を博してきた。
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


漆を研磨する工程では、職人が確かな技術を持ち、均一な動作で作業することが求められ、製品表面の滑らかさと色の正確さが左右される。

撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


国内外の消費者に人気される繊細な模様と高い耐久性を備えた漆塗りの家庭用品。
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル

古典的な漆芸作品は一つひとつ、職人の細やかな手仕事によって磨き上げられ、
伝統的な技法と美意識の結晶となっている。

撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


漆芸製品の盛り上げ描きの工程では、職人の器用さだけでなく、
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


ドイモイの以降、漆芸は伝統的な工芸品にとどまらず、壁画、テーブルや椅子、キャビネットの表面、高級装飾品など、現代的なデコールやインテリア分野へと広がってきました。伝統技法と現代デザインの融合により、漆製品は日本、韓国、ヨーロッパといった厳しい市場でも高く評価されています。若い世代の職人たちも、展示会やワークショップを通じて漆芸を現代アートへ積極的に取り入れ、若い世代の観客により身近な存在にしています。


ビンズオン省のトゥオンビンヒエップ漆芸村を代表する漆工芸品は、伝統的な手仕事の粋と独自の美術的価値を結晶させたものである。
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


工業製品との競争が激しくなる中でも、陶芸と漆芸は、職人の巧みな手仕事、細部へのこだわり、そして代替不可能な“魂”によって独自の地位を保ち続けています。ホーチミン市北東部では、体験型観光やクリエイティブスペースと結びついた新しい村づくりを目指し、地域コミュニティと都市観光の価値向上に取り組んでいます。


ベトナムで開催されたAPEC2017において、21の経済体の首脳をもてなす晩餐会で使用された精緻な金彩が施された茶器セット。
撮影:ミンロンIの資料


ベトナム陶磁器ブランドの高度な技術力と優れた美術的価値を体現する繊細な文様を

備えたミンロンIの陶磁器セット。

撮影:ミンロンIの資料


ライティウの陶工たちの高度な技と創造性を体現している目を引く文様を備えた芸術陶器。
撮影:トン・ハイ/ベトナムフォトジャーナル


訪れる人々にとって、これらの工芸村を巡る旅は、職人が土や漆に込めた思いを感じ取り、作品一つひとつが語る物語に触れる機会となります。現代の喧騒の中でも、陶芸と漆芸の村々は、古き良きビンズオンの記憶を静かに輝かせ、若く活気ある都市の中で伝統の生命力を証明し続けています。

文:レー・ミン

撮影:レー・ミン、トン・ハイ




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