焦点

ベトナムと日本、世界的な変動の中で包括的戦略的パートナーシップを強化

5月初旬に予定されている高市 早苗首相のベトナム訪問を前に、ベトナム通信社の東京支局の記者は、国際関係に詳しい専門家である東京大学公共政策大学院 SCERU シニアフェロー の西沢利郎氏に、今回の訪問の意義や今後の協力の展望についてインタビューを行った。


記者:今回の訪問は、日越の「包括的戦略的パートナーシップ」にとってどのような戦略的意義を持つとお考えですか。

西沢利郎氏: 中東情勢の緊張が続くなか、日越の「包括的戦略的パートナーシップ」の戦略的意義は大きいと思います。

「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」 は、2023年11月の日越首脳会談において、「アジアにおける平和と繁栄のための広範な戦略的パートナーシップ」から「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」に格上げされたものです。

パートナーシップが一貫して「平和と繁栄」を目的に掲げていることに加え、「アジアにおける…広範な」を「アジアと世界における…包括的」に格上げしたことは、とりわけ現在の国際情勢に照らすと、より戦略的意義の大きなパートナーシップに発展・深化していることを象徴しています。

2023年11月の日越首脳共同声明は、国連憲章の尊重、国際法の遵守、それぞれの国の政治体制・独立・主権・領土一体性の相互尊重を、日越関係を導く基本原則として強調しています。こうした基本原則の共有は時宜を得ていると思います。

記者: 世界的な不安定性やサプライチェーンの混乱の中で、日本とベトナムはエネルギーや重要資源分野でどのように協力を強化できるでしょうか。

西沢利郎氏:エネルギーや重要資源の安定供給が脅かされている現在、深刻な事態に直面する国々が協力し、連携して対応することが重要です。日本とベトナムが、「包括的戦略的パートナーシップ」のもと、二国間のみならず、関係諸国や国際機関を含む国際社会と連携しつつ、エネルギーや重要資源分野での問題解決に協力して取り組むことを期待します。

日本とアジア諸国とはサプライチェーンを通じて密接不可分な相互依存関係にあります。例えば、日本は、人工透析患者に用いる器具、手術に必要な医療物資をアジア諸国からの供給に頼っています 。このため、エネルギーや重要資源の供給途絶・不足やサプライチェーンの停滞は、日本とアジア諸国のいずれにとっても経済社会面で死活的な影響を及ぼします。

4月15日の「アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ」 は、こうした事態に備えた体制構築へ向けた中長期的な取り組みだと思います。

他方、短期的には、エネルギーや重要資源の供給途絶・不足を解消するために、迅速で恒久的な中東での戦争終結に向けて、当事国間の外交交渉が行われるよう、「アジアと世界における平和と繁栄のための包括的戦略的パートナーシップ」の基本原則のもとで、日越両国が連携して働きかけていくことが期待されています。

重要資源の分野では、世界第6位のレアアース埋蔵量 を誇るベトナムとの連携は極めて重要です。ベトナムが目指す「原料輸出国」から「中間加工・高付加価値産業国」への転換 に日本が協力できれば日越双方の利益になります。

記者:今回の訪問は、日本の「自由で開かれたインド太平洋」戦略 におけるベトナムの役割にどのような影響を与えると考えますか。

西沢利郎氏:ベトナムは、長年の外交原則である戦略的自律性を前提に、日本が提唱する「自由で開かれたインド太平洋」の基本理念に賛同していると理解しています。これは、「自由で開かれたインド太平洋」が「開かれた、包摂的な概念」である限りにおいて、ベトナムが堅持する「多角化・多様化を志向し、いかなる勢力にも偏らない自律した外交」と矛盾しないということでしょう。

「自由で開かれたインド太平洋」が、包摂性、開放性、ASEAN(東南アジア諸国連合)中心性を掲げるASEAN Outlook on the Indo-Pacific(AOIP)と整合的であることも、ASEANの一員であるベトナムとの連携を維持・拡充するために重要だと思います。

「自由で開かれたインド太平洋」は三本柱を掲げています。すなわち、ひとつ目は法の支配、航行の自由、自由貿易等の普及・定着、 ふたつ目は経済的繁栄の追求、そして平和と安定の確保です。今回の訪問は、ベトナムと日本が、こうした基本理念を再確認する機会となり 、「自由で開かれたインド太平洋」の実現へ向けて、ベトナムが戦略的自律性をもって、これまで以上に重要な役割を演じることを期待します。

記者:今回の訪問から、経済・技術・防衛などの分野でどのような具体的成果が期待されますか。

西沢利郎氏:ベトナムと日本がそれぞれの強みを活かせる、相互補完的な分野での成果を期待します。

今回の訪問は、すでにパイプラインにのっている二国間のプロジェクトやプログラムが早期に成果を生む好機となるでしょう。例えば、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)中心の脱炭素支援、グリーントランジション支援の次世代政府開発援助(ODA)ローン、半導体・AI人材育成、都市鉄道など既存案件の完工促進が視野に入っていると思います。

記者:デジタルトランスフォーメーションやグリーントランスフォーメーションが世界的な潮流となる中で、日本とベトナムは持続可能な発展に向けて、科学技術分野でどのように協力を強化できるとお考えですか。

西沢利郎氏:日本とベトナムの科学技術協力は、半導体・AIを中心とした高度人材育成と共同研究の拡大が核になると思います。

さらに、材料科学、環境・脱炭素技術、医療・バイオ、デジタルガバナンスなどの分野で、研究機関・大学・企業が連携して共同ラボや実証プロジェクトを進めることを期待します。日本とベトナムのデジタルトランスフォーメーション・グリーントランスフォーメーション戦略と合致する「研究、教育、産業化」の三位一体(a triad of mutually reinforcing elements)アプローチが着実な成果実現にとって有効だと思います。

最近、東京にあるベトナムのIT企業 の拠点を訪問しました。研究・開発、人材育成をベースに日本の顧客に高度なサービスを提供し、過去20年で目覚ましい発展を遂げた企業です。ベトナムと日本を現場で繋ぐ架け橋となり、持続可能な社会の実現を目指す企業理念はモデルになると感じました。


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