ベトナムとの友達

ヒロさんとクアン・チの患者とのリハビリテーション物語

川村啓彰さんは自ら志願し、理学療法士としてクアン・チ総合病院で働くことになりました。言葉や生活習慣の壁、そして感染症の困難などを乗り越え、ベトナムの患者達を助け、医療関係者に自らの経験を共有したいと望んでいます。


川村啓彰さんは自ら志願し、理学療法士としてクアン・チ総合病院で働くことになりました。言葉や生活習慣の壁、そして感染症の困難などを乗り越え、ベトナムの患者達を助け、医療関係者に自らの経験を共有したいと望んでいます。


クアン・チ総合病院でボランティア活動を行う
北海道札幌市出身の日本人ボランティア、川村啓彰さん。

日本人の川村啓彰さんはクアン・チ省総合病院リハビリテーション科の病室で、リハビリ訓練に行く支度をしている患者、ファム・ティ・ガーさんが上着を着るのを手伝っていました。彼はガーさんに話かけながら片膝を床につき、上着を着せ、それから杖を渡しました。彼はとても楽しそうに手慣れた動作で全てをこなします。もし、部外者が二人を見たら、まるで親子のように感じるかも知れません。しかし、本当はヒロ(この病院の医者や患者は皆、 彼をそう呼んでいる)はJICAが派遣した海外協力隊と呼ばれる日本からのボランティアなのです。

私はここでの仕事と患者の皆さんが大好きです。皆に会うととても幸せな気持ちになり、笑顔で接してくれるので仕事に行くのが楽しみです。また、上司や同僚、多くの皆さんからの頂く多くのサポートのお陰で、私の経験を皆さんともっともっと共有したいと思うようになりました。

 川村啓彰さん

ヒロはガーさんを訓練室まで連れて行きました。現在 クアン・チ省に住んでいるタイン・ホア省出身の70歳になるガーさんは、2021年5月に2度目の脳卒中を発症しました。今年は、北海道札幌市出身の日本人ボランティア34歳のヒロと一緒に、このクアン・チ総合病院で3回の治療とリハビリテーションを受けています。

 

ヒロはガーさんの腕と手をマッサージし、色々な方法で手を動かすように指導します。「リラックスしてね」と彼は流暢ではないベトナム語で語りかけます。事故や脳卒中で障害を負い、リハビリテーショ ンをするためにここに来た患者達は子供のようになり、再び話せるように練習したり、手足の簡単な動きの練習で機能回復に励んでいます。 「ヒロがいつもマッサージをしたり、母に歩く練習をさせてくれたお陰で、母の病状がさらに良くなりました。私の家族は彼を本当の家族のように思っています」とフ ァム・ティ・ガーさんの娘さんが話していました。


ガーさんとの練習の後、ヒロは別の患者に自転車漕 ぎのトレーニングを指導します。患者の足はペダルから滑り落ち、その麻痺した足は無力に見えますが、ヒロは足をやさしく持ち上げて元の位置に戻してあげます。すべての患者に対してヒロは優しく、ユーモア たっぷりにサポートしています。コロナウイルス感染症により世界中のJICA海外協力隊の派遣が中断された約1年後、ヒロは新たにベトナムに派遣さ れた最初のJICA海外協力隊員でした。隔離と自宅観察の後、ヒ ロは2021年3月18日にクアン・チ総合病院に着任しました。リハビリテーション科の患者達はすぐにヒロの存在に慣れ、彼を信頼し、その指導をとても楽しみにするようになりました。

「海外での生活や仕事は今回が初めてですが、この国の人たちの親しみやすさと、ベトナム人の同僚から得られる業務上のアドバイスやサポートはとてもやる気を湧き立たせてくれ、ここで活動することが出来て本当にうれしいです」とヒロは言います。 日本でリハビリテーションに11年間携わってきたヒロは、クアン・チ総合病院でリハビリテーション科の患者の診察やリハビリ、重篤な患者の治療のためのICU科で急性脳卒中患者のリハビリに従事しています。他にも重要な活動として、ベトナムの同僚にリハビリ技術や早期運動の重要性、日本の健康保険制度の仕組み等、日本の多くの経験と知識を共有することも行っています。


 

同病院のファン・スァン・ナム副院長は当病院がJICA海外協力隊隊員を受け入れたのは今回が2度目であり、ヒロが日本の先進医療の知識をもたらし、患者ができるだけ早く回復できるようにケアの手順と専門知識を共有してくれていると述べました。「患者はヒロに診てもらうのが大好きで、リハビリを受けることを楽しみにしています。これにより、ベトナムの医師や理学療法士も多くの技術・経験を学びました」とも語っていました。

ベトナムへのJICA海外協力隊派遣は1995年に始まった。これまでベトナムには、700名以上のJICA海外協力隊隊員が派遣されている。彼らは日本語教育・医療・スポーツ・観光・地方開発・農林水産・裾野産業支援・経営管理など、多くの分野においてベトナム全土の省や都市で活動を行い、ベトナムの発展に貢献してきた。


患者たちはヒロの気遣いと忍耐力をとてもありがたく思っています。彼から3回リハビリ訓練を受けた患者の家族によると、ヒロはリハビリ科の所定の訓練スケジュールに加え、時間外にも患者と交流し、訓練室で患者が訓練している様子を自分の目で観察し、病床まで足を運んで訓練の仕方を指導するそうです。患者の中には神経質な人や協力的でない人もいますが、ヒロは粘り強く対応し続けています。

逆に、ヒロも皆の好意にとても励まされているようです。「私はここでの仕事と患者の皆さんが大好きです。会うとみんな笑顔になるので、仕事に来るのが楽しみになります。また、上司や同僚、院内外の多くの方々にもサポートを頂いているので、これまでの経験を皆さんと出来る限り共有していきたい思っています 」

 


ベトナムでは日本と異なり、家族が患者のリハビリテーションに深く関わっており、それが退院後の生活において非常に重要であることにヒロは気がつきました。ベトナムでは健康保険の適応期間が日本よりも短く、リハビリを受けられる期間が限定的です。そこでヒロは理学療法士が患者の家族に家庭でのリハビリ方法を指導すれば、ベトナムのリハビリシステムがより良い結果をもたらすことができるのではないかと提案しました。

ヒロはベトナムでの仕事にすぐ溶け込んだだけでなく、ここでの生活に夢中になりました。ベトナムに来る前、日本で約1ヶ月間ベトナム語を勉強し、自炊のためにベトナム料理を試し、ベトナムに来る準備をしたそうです。 「ベトナム語は難しいですが、今でもベトナム語を学び、同僚や患者と一緒に話すよう努力しています。同僚、友人、隣人がとてもフレンドリーなので、ベトナムでの 生活に慣れるのは難しくありません」と彼は言います。 道を埋め尽くすオートバイや新型コロナウイルス感染症の流行による移動制限など、ベトナムに来て驚くこともありましたが、それはヒロにとって毎日絶え間ない喜びの発見につながります。


ヒロにはホームシックになる時間もありません。 今でも退院した患者たちが彼に連絡し、挨拶したり、 感謝を伝えたり、リハビリの成果を知らせてくれたりしています。ビデオや写真を撮ってヒロに送り、彼はそれを見て、彼らの動きを調整するように指導します。 ヒロの活動は医療スタッフとしての責任や義務だけでなく、心からの愛情、 国境を越えた人と人の心の絆でもあります。


JICA海外協力隊隊員は、現地の人々と 共に働き生活を共にすることで世界をよりよくしたいという熱意のある日本国民の参加により成り立っています。こう した取り組みは日越両国民の絆をより強いものにしていくものと考えます。例えば、地域コミュニティの活性化を支援する等、草の根レベルでの取り組みによ り、双方の絆をより深めることに貢献しています。

 JICAベトナム事務所 清水曉所長


文、撮影:ヴィエット・クオン/ベトナムフォトジャーナル



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