この店の主人はファム・ゴック・トアンさんで、40年以上にわたって手作りの印章の製作に携わっています。意外にも、職人になる前は、黒板と白いチョークに囲まれた教師だったことを知る人は少ないでしょう。しかし、家業への深い愛情が彼の人生の道を変えました。彼によれば、木彫り印章の技は祖父から父へと受け継がれ、家族の生活に欠かせないものとなったそうです。幼い頃から鑿や小刀、粗削りの木片に触れながら育ち、いつの間にか「この仕事が体に染みついていた」と語っていました。
この店の特筆すべき点は、ハノイの地元住民だけでなく、国内外からの観光客も多く訪れることです。トアンさんによると、ここ2年ほどで、SNSやインターネットの影響により、若者の間でも店の存在が広く知られるようになったそうです。手作りのスタンプの制作過程を自分の目で見たい人や、ベトナム文化の香りを感じるお土産を求める人など多くの人が訪れます。フックロイ印章店は、伝統文化を体験したい観光客にとって、ハノイのお勧めスポットの一つとしても紹介されています。
かつて木製印章は主に印刷や宗教的な目的で使われていましたが、今日では新たな様相を呈しています。多くの顧客、特に観光客は、贈り物やお土産として様々なデザインのスタンプを注文するようになりました。こうした変化に合わせて、トアンさんは市場の需要に応じて積極的に取り組み、伝統的な職人技の本質を保ちつつ、より多様なデザイン、サイズ、模様のスタンプを生み出しています。
ファム・ゴック・トアンさんは、現代社会の絶え間ない変化の中で何よりも大切なのは、この伝統工芸を守り続けることが最も重要だと強く信じています。彼にとって、手彫りの木製印章は単なる仕事ではなく、国民的アイデンティティの一部です。作り出された一つ一つのスタンプには、木の形だけでなく、職人の物語、情熱、そして魂が込められています。そして、顧客がそのスタンプを遠い国々へと持ち帰るとき、ベトナムの文化もまた広がり、素朴でありながら奥深く、非常にユニークな方法で語り継がれる瞬間でもあるのです。
ファム・ゴック・トアン氏の家族が手がけたスタンプ。 撮影:カイン・ロン/ベトナムフォトジャーナル
にぎやかな旧市街の真ん中、ハンクアット通りの小さな一角では、彫刻のリズミカルな音が今日も絶え間なく響き渡っています。それは単なる労働の音ではなく、伝統工芸が時を越えて受け継がれていく力強い鼓動なのです。
文、撮影:カイン・ロン/ベトナムフォトジャーナル